翌日・・・
この日は俺の予想を遥かに超える永い・・・余りにも永い一日だった。
夢を見る。
「どうかな??コーバック?」
ここは・・・そうだ。
確か・・『千年城』って言ったか・・・
かつて俺の相棒志貴が修行を行っていた場所・・・
そして何でも『真祖の姫君』アルクェイド・ブリュンスタッドさんの居城らしいがその主は今はいない。
志貴を追っかけて日本に行ったとか行かないとか・・・
そして・・・ああ、やっと思い出した。
俺はゼルレッチ老に連れられて来たんだ。
何でも俺の中に特殊な魔具が収まっている可能性があるから少し調べるってそんな事をほざいて強引に連行されたんだったな・・・
「ああ間違いないで、この坊主の体中にその魔具が分解されて入っとる」
そう言っているのはコーバック・アルカトラス。
ゼルレッチ老と同じく死徒らしい。
しかし、その性格は・・・なんと言うかめちゃくちゃだ。
使っている言葉も関西弁だし。
ただ、封印の魔術や語学の腕、そして魔術回路や魔具の解析に関しては超が十個ついてもおかしく無いほど一流だ。
最初魔術回路見てもらった時、ただ一目で下した結論は『なんやこの魔術回路・・・化け物か己は?』だったし。
「どんなものか判らんか??」
「無茶言わんといてや。数百に渡って分けられとんのや。一瞬で判ったらそら神様やで」
ぶつくさ言いながら一時間近く俺の身体を色々調べてからおもむろに
「ふう・・・判ったで」
「そうかそれでいったい何が?」
「詳しくは判らんけどな、なんか薄くて長いもんやな」
「それだけで判るか。一体なんなのだ」
「そうやな〜一言で言えば・・・」
「・・??・・・という・・・」
「そうやその・・・や」
「・・・がどうして・・・」
「そこまではわから・・・。ただ言えとるのは・・・・・・・やで」
「と言うと?」
「おお、この・・・の担い手が・・・・・・・・・」
「そうか・・・そうなるとこれは・・・だな・・・と言うのも肯ける・・・」
駄目だ。肝心な部分が聞き取れない。
「まあ、本来の担い手のイメージ借りれば士郎の腕なら朝飯前で復元できるわな。こいつの投影は悪魔的やから」
だが何故かその台詞だけがはっきりと聞こえた。
眼を覚ました。
セイバーは今席を外している様だ。
「何であんな散々な目にあった夢を・・・ああ、そうか夕べ過去の事とかいろいろアルトリア・・・いや、セイバーに言われてついつい思案に暮れていたからか・・」
あの時は酷い目にあった。
俺の体内に何かあるのではという疑惑を晴らすだけだったのがしまいには隅から隅まで調べ上げられたからたまったものじゃない。
「決して悪い人達じゃないんだけどな・・・」
その代わり人をおちょくる事に掛けては異常な執念を見せている。
それにしても・・・
「セイバーの真名がアーサーなら俺の体内に何が組み込まれているか自然にわかる・・・返さないとな・・・長い事借りっ放しだったから・・・そして・・・すまないセイバー・・・」
俺は何時もの様に鍛錬に勤しみ、桜と朝食を作る。
「そう言えば桜、学校はどうする?」
「姉さんにも言われましたが暫く休みます」
「それが賢明だろうな。『聖杯戦争』自体ここまで混迷してくるとどんな事態になるかわからない」
ちなみに俺や凛はこの時期から休みに入って後登校するのは卒業式だけだろう。
「おっはよ〜」
すると昨日の落ち込み様は何処吹く風とばかりに藤ねえが飛び込んできた。
「ああ、おはよう藤ねえ。どうしたんだ何時もより速いな」
「うん、卒業式や期末試験の準備忙しいから。あっそれと士郎、多分二・三週間こっちには来れないと思うから」
「準備で?」
「うん」
「じゃあ朝飯早く用意するか?」
「お願いね〜」
「それと藤村先生」
「どうしたの桜ちゃん?」
「はい・・・実は・・・」
「藤ねえ。桜の体調が少し悪いらしい。学校に行かせても支障は無いと思うんだが大事をとって休ませたいんだが」
「えっ?体調悪いの?」
「はい、少し身体がだるくて・・・」
「判ったわ。弓道部の方は先生に任せておいて」
「すいません」
「良いのよ。それと士郎、桜ちゃん休ませて置くのよ」
「ああ判っている。朝食の準備だって本当はさせたくなかったけど本人がどうしてもって主張するから」
藤ねえが一足速く朝食を取り学校に向かったので比較的静かな朝食が始まる。
藤ねえが先に出かけた事と暫くこない事を伝えると昨日の極地ハリケーン『タイガー』に被災したセイバー、イリヤ、アーチャー、ライダーは露骨に安堵していた。
その場に居合わせなかったセラさん、リズさんは何の事かと首を傾げていたが、皆あえて口を閉ざした。
お二人とも、知らなくても良い事なんてこの世にはたくさんあるんですよ。
朝食も終わり各々散会して居間には俺と凛に桜だけになった。
俺がニュースにチャンネルを合わせる。
すると少し気になるニュースが飛び込んできた。
「??欧州で原因不明の地震??」
それは今朝未明、突如欧州で地震が発生したと言う額面だけ見ればそう気に留める筈の無いニュース。
しかし、気になるのはその原因がまったくわからないと言うものだった。
震源地も特定できず、原因である地殻変動も確認できていない。
「変な世の中よね」
何気に見ていた凛が呟き、俺は無言で同意する。
「さてと、私は少し調べ物してるわね」
「ああ、昼になったら呼ぶからな」
「ええ、お願いね士郎」
そう言って凛が居間から出て行く。
「じゃあ私は少しお掃除をしています」
「ああ、でも適当に切り上げて寝て置けよ。一応病人なんだからな。仮病でも」
「はい」
桜も立ち去る。
「ねえシロウ」
それと入れ替わりに・・・いや、と言うよりも俺が一人になるのを待っていたのか不意にイリヤが俺を呼ぶ。
「どうかしたのか?」
「ちょっと相談したい事があるの」
「相談??」
「ええ、ちょっとこっちに来て」
俺はイリヤに招かれるままイリヤの部屋に来た。
「で、相談って??」
「うん・・・『大聖杯』に何か起こったみたい」
躊躇いがちに俺の心臓を鷲掴みする事を言ってきた。
「どう言う事だ??何かってどういう意味なんだ!!」
「シロウ、声が大きい」
「あ、ああ・・・すまん」
「順を追って説明するわ。夕べなんだけど、聖杯・・・つまり私ね・・・と『大聖杯』を繋ぐラインが途絶えたの」
「途絶えた??」
「ええ、それだけじゃないわ。こっちは確証が持てないんだけど、『英霊の座』・更には『根源』への道の繋がりすら途絶えてしまったみたいなの」
「な!!!じゃあ・・・今召喚されているサーヴァントは?」
「還るだけなら大丈夫よ。でもこの状態じゃまた『大聖杯』を作り直さない限り、もうこの地で『聖杯戦争』を行う事はほぼ不可能に等しいけど」
「そうか・・・それよりも原因はわかるか?」
「判らないわ」
「そうか・・・」
「シロウ、こうなったらリンに相談するべきよ。リンだって話せば理解してくれるわ」
「それは判っている」
「じゃあなんで・・・」
「この世の全ての人間がモノの判りがいい奴とは限らないからな」
「・・・そっか・・・協会ね・・・ふう・・・シロウって不器用なんだから・・・」
そう、確かに凛に事態を説明すれば容易く協力を得られる。
桜に関しても同じだろう。
しかし、世の中には世界がどれだけ被害が被ろうと自分の事さえ上手くいけば構うものかという奴もいる。
何しろ『大聖杯』・・・いや『天の杯』は『根源』に関わるのだから神秘の秘匿を最優先にしている協会は傍観の構えを取るかもしれない。
そのくせ、許可無しに破壊すればいちゃもんをつけて来るだろう。
その時に凛が関わったとなれば凛に被害が及ぶ。
それだけは避けたかった。
累が及ぶのは俺一人で充分。
「イリヤ、凛達にはもう少し黙っているからそのつもりでな。あと、他にわかっている事は?」
「私がわかるのはそれだけ。後はコトミネに聞いてみるしかないわね」
「言峰??何でまた」
「シロウ知らなかったの?コトミネは前回の聖杯戦争の時一度死に掛けているのよ・・・いえ、殆ど死んでいるに等しいわね」
「死に掛けた??死んでいる??」
「ええ、キリツグに銃弾を心臓に打ち込まれてね。その後、あいつはキリツグによって破壊した『聖杯』の中身を受けたのよ。その結果コトミネは『聖杯』の中身によって生かされた。だから『大聖杯』との繋がりだけならむしろあいつの方が強いわ。何しろ本当の意味で一心同体だから」
「そうか・・・出来れば行きたくないんだが」
「同感」
しかし、『大聖杯』に異常が起きている事が真実ならば、少しでも確かな情報が欲しい。
どうも嫌な予感がする。
と、その時、チャイムが鳴る。
「客か?」
昨日の慎二の件がある。
慎重に引き戸を開けるとそこには、黒のライダースーツを身につけた金髪・赤眼の男が立っていた。
だが、にじみ出ている魔力から判る。
この男もサーヴァント・・・だが待て。
既に七騎のサーヴァントが現界していると言うのにこいつは一体何者だ?
「・・・何者だ?」
「ほう、貴様か、言峰の言っていた雑種は」
随分と偉そうな口調の男だと思っていたら背後から
「シロウ、一体・・・なっ!!」
セイバーがこちらを・・・いや正確には、訪問してきた男に驚愕の視線を向けている。
「ほう、セイバーか、久しいな」
「な、何故・・・何故貴方が現界している・・・アーチャー」
何??アーチャーだと?
「セイバー、どう言う事だ?アーチャーと言うのは?」
俺がセイバーに問い掛けようとしたがそれより早く、
「雑種、言峰からの伝言だ。一度しか言わぬ。“聖杯戦争に参加している全マスター、全サーヴァントは今夜八時教会に集合せよ。その間聖杯戦争における、ありとあらゆる活動の中止を命じる”との事だ。ここにいる他の雑種共にもその旨を伝えろ」
なんと言う傲慢な口調か・・・だが、それよりも確認を取らないと
「何?言峰が??おい、それはどう言う事だ??」
「我も知らん。詳しくは言峰本人に聞け」
そう言うと、男は振り返る事無く立ち去って行った・・・
居間には既に全員が集まっている。
「で、セイバー、君はあいつの事をアーチャーと呼んでいたが・・・」
「はい、彼は前回の聖杯戦争に参加していたサーヴァントです」
「な、何ですって!!」
「そんな事が!!」
凛達が驚くのも無理は無い。
通常、聖杯戦争が終わればサーヴァントは元の『英霊の座』に帰還するもの。
その様な例外など聞いた事が無い。
そしてアーチャーと言えばそのマスターは確か・・・
「でも、セイバー、何故あなたがあの偉そうな高飛車男の事知っているの??」
「それは・・・」
セイバーが若干言い難そうだったがそれでも視線を真っ直ぐに向けて
「それは簡単です。イリヤスフィール。私も前回の聖杯戦争において戦った身だからです。クラスも同じセイバーとして、そしてシロウの養父衛宮切嗣がマスターとして・・・」
「「ええええ!!!」」
「やっぱりそうだったのね・・・」
凛と桜は驚きイリヤは納得した様にため息をつく。
「それでセイバー、奴の真名とかは判るか?」
「いえ、真名は知りません」
「それじゃあ宝具は?」
「それも知らない・・・と言うよりは・・・判らないのです」
「判らない??どう言う事だ?奴はセイバーとの戦いで宝具を温存していたのか?」
だとすればそれは恐ろしいほどの自惚れ屋と言う事か・・・
「いえ、彼は温存していたような空気ではありませんでした。ただ、彼が使用した宝具と思われる武器はあまりにも無差別だったので・・・」
「無差別??」
「はい、ですが・・・これは実際に見ないとシロウ達も多分判らないかと思います。それほど彼は私達サーヴァントから見ても規格外でした」
「そうか・・・まあ、前回のアーチャーについては置いておこう」
「置いておくって・・・良いの?」
「ああ、今の所は敵か味方かも判らない。必要以上に警戒をする必要は無い。セイバー、今のあいつと戦って勝てそうか??」
「それは正直な所なんとも言えません。長距離、中距離では圧倒的にアーチャーの方が有利ですから・・・ですが近接での戦闘ならば私に利があります・・・彼がこれ以上隠し手をもっていなければ」
「そうか・・・判った。一先ずそれはそれとして、今は言峰の言葉の方が重要だ」
「そうね。一体どう言う事なの?・・・教会に集合だけならまだしも、その間聖杯戦争の活動自体を中止しろなんて・・・」
「凛、かつての聖杯戦争にもそんな事例があるのか??」
「ある訳無いでしょ。二日前の夜にも綺礼が言っていたでしょ??教会はあくまでもサーヴァントを失ったマスターの避難場所であるに過ぎない。それをサーヴァントがまだ一体も脱落していないのに全て集合だなんて・・・」
「何かあったのでしょうか・・・」
「何かと言うよりも全部がめちゃくちゃになっているのは間違いないわね。何しろ一つのクラスにサーヴァントを重複させる、前回のサーヴァントが生き残っているわ異常もここまで来ると呆れるしか無いわ」
「ああ、まったくだな」
「って、士郎あんたもその要因の一翼担っているんだからね」
「なんでさ」
「あんたね、その化け物じみた戦闘力をイレギュラーと言わないでなんて言う気??」
「「「「「同感です(だな、だよね)」」」」」
凛の辛辣な言葉に内心泣いた。
もっと泣いたのは皆がそれを同意した事だった。
「ともかく夕食が終わったら教会に向かおう。それで良いか?」
俺の言葉に全員肯いた。
それから、昼にはセイバーの鍛錬に付き合い、
「はあああ!!」
「くっ!!」
その後、凛に俺の魔術に関することを根掘り葉掘り聞かれ(さすがに核心に迫る事ははぐらかしたが)
「はあ・・・あんた本当投影以外は零に等しいわね」
「そこまでずばりと言わないでくれ。俺も嘆きたくなる」
食事の準備を行い
「桜、醤油」
「はい」
そして時間になった。
教会に到着するとそこには先客がいた。
「衛宮に・・遠坂か」
「!!坊や・・・」
昨夜俺と一戦やらかした葛木先生とキャスターがいた。
「キャスター!!」
セイバーが剣を構えようとするが、
「よせ」
俺が抑える。
「ですが・・・」
不服そうだったが渋々剣を納める。
「随分とお早いですね」
「時間も指定されたのだ。遅れれば礼を失する」
まったく持って正論だった。
「やあ衛宮」
とそこに聞きなれた声が聞こえる。
「慎二・・・」
慎二がアサシン『佐々木小次郎』を引き連れて、そしてもう一人小柄な老人が黒きアサシン『ハサン・サッバーハ』を従えて入ってきた。
一見すると非力な好々爺に見えるがその周囲からおぞましい腐臭が漂う。
「凛・・・あの爺が?」
「ええ、間桐臓硯。間桐の怪老よ」
すると何を思ったか臓硯は俺に近寄る。
「お主がかの悪名高き衛宮の倅か?」
「悪名高きは除外しろ化け物爺」
親父を中傷する様な台詞に少しカチンと来た。
また『錬剣師』の口調になっている。
「かっかっかっ、わしなどかの衛宮切嗣に比べれば可愛いものよ」
「何を抜かす。とっくの昔に人間を止めた人外が。親父に比べればなんて台詞吐けるならまず、どす黒い腐臭位隠せ」
思わぬところで舌戦が始まったがその時
「ほうしっかりと集まったようだな」
俺達を呼びつけた張本人が仰々しくやって来た。
後ろに昼とはうって変わって黄金のフルプレートアーマーを身に纏った前回のアーチャーだと言われる男が現れた。
どうでも良いが凛、『あの鎧いくらで売れるかしら??』なんて事を小声で言うな。
しかも本気になって計算始めるな。
遠坂は宝石調達の為の資金集めに四苦八苦していると聞くがここまでとは・・・
それよりも更に後ろからもう一人現れたが・・・あれは・・・ランサー??
「よう士郎、元気そうで何よりだな」
「ああ・・・それよりもマスターはどうした?何故お前があのくそ神父と一緒に??」
「ああ・・・そいつは」
「何故とは愚問だな。衛宮士郎、ランサーは私のサーヴァントであるだけだが」
その回答に言峰が厳かに答えた。
「!!綺礼どう言う事よ!!本来監督役がサーヴァントを持つのは禁じられている筈よ!!」
「それにどうやってもう一方のサーヴァントを今日まで保有していたんだ言峰。そいつはお前のサーヴァントだろ。それも前回の聖杯戦争での」
俺の言葉に凛が更に眼を向く。
「あんた・・・」
「さて長話もなんだ早速本題に入ろう」
詰問を全て黙殺し言峰は何時もと変らぬ口調で告げた。
「結論より言おう。今回の『聖杯戦争』は破綻した。よって今後マスターが最後の一人となっても聖杯を得ることは出来ぬ」
その言葉に全員沈黙を持って返した。
そしてそれは俺やイリヤも同様だった。
ある程度何かが起こっている事はイリヤから聞いていたがそこまで深刻だったと言うのか?
「言峰、それはどう言う事だ?」
やがて詰問気味に問い掛けて来たのは意外にも前回のアーチャーだった。
「言ったままだギルガメッシュ。『聖杯戦争』は破綻した」
それに対する言峰の答えは世の絶対真理を説くが如く威厳に満ちた力強いものだった。
それよりも気になるのは今言峰が言った名だ。
「士郎・・・ギルガメッシュって」
「古代メソポタミアにおける有史最古の英雄王」
またとんでもない奴を保有していやがったな。
「言峰、破綻とはどう言う事だ?聖杯に何があった?」
「ふっ・・・私に聞くよりもバーサーカーのマスターに聞くが良かろう」
その言葉に全員の視線がイリヤに集結する。
「どう言う事なの?バーサーカーのマスター」
「・・・はあ、仕方ないわね。ええ、コトミネの言うとおりよ。今の時点で『聖杯戦争』は破綻している。昨夜突然『大聖杯』との繋がりが全て途絶えたのよ・・・そう、全てね」
「!!!な、なんじゃと!!!」
臓硯がイリヤに詰め寄ろうとする。
「落ち着きたまえ間桐の怪老よ。話は終わっていないぞ」
言峰がそれを制する。
「イリヤ?『大聖杯』って何よ??」
「聖杯を作る為の原型の魔法陣よ。まあ知らないもの無理は無いわね。これを知っているのはかつて『大聖杯』を作り出した当時の遠坂・間桐の当主とアインツベルン家、それに立ち会った宝石の魔導翁。そして彼のごくごく一部の弟子だけですもの」
淡々と告げるイリヤ。
「じゃあサーヴァント達は・・・どうなるんですか?」
「座に還る事は可能よ。ただ・・・現時点で『聖杯』の機能は完全に崩壊している・・・今後この地で『聖杯戦争』を・・・サーヴァントを呼ぶ事はもう不可能よ。」
「なんと言うことか・・・我が五百年の宿願が・・・」
無慈悲な言葉に臓硯が膝を付く。
「それにもう一つ付け加えよう間桐臓硯。繋がりを絶たれてから『大聖杯』に蓄えられていた魔力が急速な速さで消え失せている。現時点でもはや七割が消失している。この勢いで行けば聖杯としての機能に続いて『大聖杯』そのものも程なく崩壊するな」
人の不幸がそれ程面白いのか言峰が膝を突く臓硯に更なる無慈悲な言葉を叩きつける。
だがそれよりもとんでもない事を言っていたぞ。
「言峰、魔力が失われているってどう言う事だ?・・・マナに還っているのか?」
だとすれば周囲の霊脈に重大な影響が・・・
「違うな衛宮士郎。『大聖杯』の繋がりが途絶えた後、噴き出した魔力は悉く消失している。何らかの術を用いて別の場所に輸送しているのだろう」
「輸送だと?何の為に」
「そこまでは判らん。それこそ当事者に詰問せぬ限り」
そこへイリヤが言峰に詰問する。
「それでコトミネ、何でここに全サーヴァント・全マスターを呼び寄せたの?その理由も教えてくれないかしら?」
「ああ無論だ。今回ここに全マスター全サーヴァントを招集したのは今回に限り『聖杯戦争』のルールを変更する為だ」
「変更?どう変える気だ?」
「全マスター・全サーヴァントはこれより『大聖杯』の元に向かってもらう。そしてこの非常事態の原因を排除した者に残された『大聖杯』の魔力を全て与えよう。何、七割失ったとは言え、その魔力は未だ莫大だ。しかし、手をこまねけば『大聖杯』の全ては失われよう・・・承諾するか拒否するかどちらが好都合か?どちらが利をもたらすのか?これはお前達には一目瞭然かと思うがな」
結局、俺達は全員このルール変更を承諾した。
そしてこれに言峰とギルガメッシュ、そしてランサーも参戦する事になった。
「何で監督役まで参戦するんだ?」
「知れた事だ衛宮士郎。私は監督役であり神に仕える者だ。誰の手に『大聖杯』が渡るとしてもそれを祝福してやるのが役目だ。それに誰も該当者が出ない場合私が『大聖杯』を預からねばならん」
「何が役目だ。イレギュラーのサーヴァントを隠し持っていた癖しやがって。それにどうせ横から分捕る気だろ?」
どちらにしても、これでサーヴァント数は九体・・・
「最後に一つ参考までに教えておこう。こう話している間にも『大聖杯』は魔力を失っている。この勢いで行けば、我々に残された時間は長く見積もっても夜明けまで最悪では日付が変わるまでと理解しておいた方が良いだろう」
日付の変更・・・つまり夜の零時から夜明け・・・今が夜の九時過ぎであるから残り三時間弱から九時間強・・・
「では開幕としよう」
その言葉と共に俺達は一斉に動き始めた。
目的地はわかっている。
なぜなら・・・
「それと、『大聖杯』は柳洞寺の地下に存在する。入り口は自分達で探したまえ」
くそ神父があっさりと暴露したからだった。
無論俺達も教会を後にする。
「なにやら急速に事態が変りましたね」
「ああ」
セイバーの言葉に俺は短く受け答える。
「先輩、ともかく『大聖杯』に急いで向かいましょう。間桐先輩達はもう先行しています」
「そうね急ぐわよ士郎」
「そうだな・・・ああ、そうだその前にセイバー」
「はい?なんですかシロウ?」
「俺の胸に手を当ててくれないか」
「??一体何を?」
「そしてイメージしてくれ。お前がかつて失った鞘を」
「!!シ、シロウ・・・何故それを・・・それに一体・・・」
「早く」
「・・・わ、判りました」
そっと震える手を俺の胸に当てる。
「行きます」
その言葉と同時に俺に明確な形が叩き込まれる。
「・・・投影開始(トーレス・オン)」
銃の撃鉄が二つ引き落とされる。
その瞬間俺の手に光が収束し数秒後体中に分散していたパーツが一つに結集し本来の姿を取り戻した。
それと同時に俺の身体から何かが抜けていく・・・
だが、それこそが本来の形、俺の体内に納まっていた鞘は完全な形にて復活を遂げた。
「・・・シロウ・・・これは確かに私の鞘・・・何故これが・・・」
「親父が俺を助ける為に俺の体内に埋め込んだ物・・・そして俺とお前を結んだ触媒・・・これを今こそお前に返そう」
そう言い、セイバーに鞘を渡す。
「で、ですが・・・シロウこれは貴方が持っていた方が」
「いや、これはお前に返す・・・どちらにしろもう俺には必要ないし直ぐに無用の長物となるからな」
「え?」
次の瞬間
「投影開始(トーレス・オン)」
俺の手にはキャスターの宝具、全ての魔術効果を打ち消す究極の対魔術兵装『破戒すべきすべての符(ルールブレイカー)』。
それを・・・俺は・・・何の躊躇いも無く・・・セイバーの胸に突き刺した。
「セイバー・・・許してくれとは言わない。恨んでくれて・・・憎んでくれて構わない」
「し、シロウ・・・」
俺の手から灼熱感が消え失せる。
それは俺から眼の前の彼女との繋がりが消え失せた何よりの証。
凛も桜もイリヤすらも呆然と見ている。
「な、何故・・・」
「だから・・・セイバー頼む。この地の・・・『聖杯』だけはもう求めるな。あれは『聖杯』ではない・・・あれは『邪杯』だ。人の積年に及ぶ負の念が詰まった・・・それと凛、桜、イリヤ・・・ごめん」
そう言うと俺は振り向く事無く一目散に走り出した。
士郎が走り去った後も全員呆然として眼前の道を見つめていた。
信じられなかった。
信じたくなかった。
どうして士郎は自分からサーヴァントとの繋がりを断ち切ったのか?
聖杯を独り占めするため?
いや、それは違う。
それなら『大聖杯』に着いた時に彼女達を始末すればいい。
士郎ならそれが出来る。
実力面だけで見た場合の話だが・・・
それに立ち去る寸前に見せたあの表情。
今にも泣きそうな自責と罪悪感に満ちた顔。
その表情を至近で見たからこそセイバーは追う事が出来なかった。
「・・・本当に不器用なんだからシロウ・・・本気で責任と罪を全部背負い込む気なんだ」
ようやく呆然から解放されたのかイリヤが寂しそうに・・・悲しそうに呟いた。
「どう言う事なの?イリヤ。あんた士郎が何故あんな事をしたのかその理由知っているの?」
「イリヤちゃん??」
「・・・ええそうよ。全部知っているわ」
「どうしてシロウは・・・」
「知ってどうするの??知らないほうが良いわ。シロウもおそらくそれを望んでいる」
「そうだとしてもよ!!」
「イリヤちゃん!!」
「・・・判ったわ。とりあえず話しながら向かいましょう」
そう言って歩き出そうとした時
「えっ??」
今度は凛から間の抜けた声がした。
「どうしたの?リン・・・」
その問いに答える事無く凛は強張った表情を自身の腕に注いでいる。
その視線の先にある筈の令呪・・・それは姿を消していた。
「ど、どう言う事??これ・・・」
「ふむ、順序・予定は狂ったが結果良好と言うことか」
そんな声がした。
振り向くとアーチャーが士郎と同じ短剣をあろう事か自分の胸に突き刺していた。
「ア、アーチャー!!」
「この様な千載一遇の好機見逃すほど私は愚かでは無い。凛あいにくだが契約はこれで無効だな」
「あ、あんた・・・」
「私の事よりも早くセイバーと再契約しろ。やっと望み通りセイバーを得られるのだぞ」
「な、何言っているのよ!!こんなので喜べる筈無いでしょう!!それにこんなことやっても」
「意味が無いかね?いやあるさ。あのような理想と現実の折り合いもつけられぬ愚者はいずれ悲劇だけを撒き散らす。だからこそ私が殺してやるのだよ」
「そ、そんなの」
「いや分かるさ。あの男は必ずそうなる、なにしろ・・・いや、これは君には関係の無い話だな。さてと・・・では行くか・・・さらばだ」
そう呟くとアーチャーもまた風となり駆け出した。
全員呆然として見送っていた。
士郎の突然行った契約の破戒、そしてアーチャーの自殺行為としか取れない契約の打ち切り。
何故この様な事を・・・
全員頭の中にはその疑問だけが渦巻いていた。
「あの馬鹿・・・どうしてそこまでしなくちゃ行けないのよ・・・セイバー」
「はい、リン」
「納得出来ないかもしれないけど、あなたと再契約するわ・・・構わない?」
「・・・お願いします」
やや迷った末セイバーは肯いた。
「本当に良いの?」
「はい、私は知りたい。何故シロウがあのような事をしたのか?そして聖杯に何が起こっているのか?そしてシロウはどうして『聖杯』を『邪杯』と呼んだのか・・・」
「判った・・・じゃあ始めるわ・・・告げる!汝の身は我が元に、我が命運は汝の剣に!聖杯のよるべに従いこの意、この理に従うのならば・・・我に従え!!ならばこの命運汝が剣に預けよう」
凛の手に光が灯る。
「セイバーの名に懸け誓いを受ける。貴方を我が主として認めよう・・・凛!!」
この瞬間新たなるラインが引かれ、セイバーは新たなるマスターを得た。
「どう?調子は?」
「はい、シロウと決して見劣りしない。私はつくづくマスターに恵まれている・・・」
「それでセイバー貴方の真名は?」
「はい、私の真名はアルトリア。かつてアーサー王と呼ばれた者です」
「アーサー王!!、イングランドの騎士王!!円卓の騎士で有名なあの!!!」
「いえ、それ程大層な者ではありません。それよりも」
そう言うと、セイバーはイリヤに向き直る。
「イリヤスフィール、教えてくださいシロウは何故・・・」
「判ったわ。その説明をする前にシロウが『聖杯戦争』に参加した本当の目的を知らないといけないわ」
「本当の目的??何ですか?それは」
「聖杯・・・いえ『大聖杯』の完全破壊それがシロウの目的よ」
「えっ!何故・・・やはりシロウは十一年前の・・・」
「十一年前??」
「はい・・・私が前回の『聖杯戦争』にも参加したサーヴァントだと言う事は昼間言いました。その際私はマスター・・・シロウの養父であったキリツグの命令で『聖杯』を破壊した・・・その余波がシロウから家族を奪い取った・・・」
そう言ってセイバーは俯く。
「理由の一つなのは間違いないと思うわ。でもシロウがそれを目指したきっかけはシロウの師匠から破壊を命じられたからよ」
「師匠??」
「ええ、でも、シロウはこれだけは話すなって言っていたから師匠の名前は秘密ね」
「秘密って・・・イリヤあんたは知っているの?」
「ええ当然よ。なんたってシロウの家族なんだから・・・それはそれとして話は変えるけど確かに『聖杯』はシロウの言ったように『邪杯』よ」
「なんで判るのよ?」
「簡単よ。私は今回アインツベルンによって選ばれた『聖杯』ですもの。『大聖杯』とは夕べまで繋がっていたんだから」
何でも無い様に重要な事を話すイリヤ。
「「・・・」」
絶句する凛に桜。
「それでイリヤスフィール。『邪杯』とはどう言う事ですか?」
セイバーが問い掛ける。
「今『大聖杯』には悪魔が眠っているのよ。第三回の聖杯戦争時にアインツベルンが呼び出した呼んではいけないモノ。『復讐者(アヴェンジャー)』その名を反英霊『アンリ・マユ』」
「イリヤ、『アンリ・マユ』ってゾロアスター教に出てきた・・・」
「ええ、この世にある全ての悪を支配する神・・・実際に呼び出されたのはその名を押し付けられた何のとりえの無い一般人なんだけど、それをアインツベルンは呼び出した・・・『聖杯』の全てを奪い取らんが為に・・・でもそれは結果的にはアインツベルン千年の宿願を破壊する行為だった」
「どうしてですか?」
「結局『アンリ・マユ』は呼び出されても直ぐに敗れて『聖杯』に取り込まれた。それが問題だったのよ。『聖杯』に入り込んだ『アンリ・マユ』は英霊とは違って万人が願った人類の理想。その願いを聖杯は受け取ってしまったのよ。その結果『聖杯』は『アンリ・マユ』の願いだけを・・・そう破壊と滅亡だけを叶える展望器と化してしまった」
「じゃあ・・・」
「ええ、前回の聖杯戦争終戦時の大火災は『アンリ・マユ』の余波で起こったもの」
「では・・・キリツグは・・・」
「キリツグはあれを極めて危険と判断してセイバーに破壊を命じた。あれは正しい選択・・・いわば英断だった。もし『アンリ・マユ』が解き放たれればあの大火災以上の災禍が全世界で巻き起こったでしょうね・・・だからキリツグはセイバーに破壊を命じた後呪いの余波で命を落とし、シロウは一人で『大聖杯』破壊に赴いた。あんな悲劇を二度と起こさない様に・・・そしてこれは推測だけど、『聖杯』に対して必要以上に執着のあるセイバーにまた苦渋の選択をさせない様に・・・破壊してもこの地の管理人であるリンやサクラに迷惑をかけず自分一人がその責を背負う為に・・」
「シロウ・・・」
「先輩・・・」
「あの馬鹿・・・どうして話してくれないのよ・・・そんなに頼りない訳??私達」
「それがシロウなのよ・・・他人を押し退けてでも自分だけが茨の道を歩く事を是とする・・・さて、私の話はこれでおしまい。次はリンよ」
「私??」
「ええ、アーチャーはどうして自分から契約を絶ったの?口ぶりから察するに知っているんでしょう??」
その途端凛の表情が強張る。
言いづらそうだったが
「・・・わかったわ。あいつは・・・士郎なのよ」
「「「えっ??」」」
一瞬何の事かわから無い様に声を合わせる三人だったが凛が明確に伝える。
「信じられないだろうけどあいつはね・・・士郎なのよ。遠い未来・・・あいつは自分の夢である『正義の味方』をかなえる為に世界と契約して英霊にまで上り詰めた」
「で、ですがそのシロウがどうして・・・」
「あいつの目的は『聖杯』なんかじゃない。士郎を殺す事よ」
「こ、殺す??どうして・・・英霊にまで上り詰めて夢を・・・先輩は『正義の味方』になる夢をかなえたんじゃ・・・」
「違うわ桜・・・今のあいつは夢から見放され理想からも裏切られ磨耗しきっている。そしてその原因を過去の・・・つまり今の士郎に求めている。元々士郎の夢や理想は義父からの借り物だったから。だから士郎を夢と現実の区別が付かない愚者として葬ろうとしている。そうする事で自分殺しの逆説により消えるのではないかというかすかな希望に縋って・・・」
「無理です。もう既に英霊と言う結果を得ている以上過去の自分を殺しても・・・!!!」
「あいつだってわかっている。それがとんでもない八つ当たりだって・・・でもしないと気が済まないのよ・・・でも唯一救いがあるとするなら・・・あの馬鹿は最後の最後まで・・・全てに裏切られてもかつての誓いを守り通せたって事だけ・・・」
「誓いを・・・守り通した・・・」
「セイバー??どうしたの?」
「・・・そうだったのですか・・・」
呆然とした口調で呟く。
そうやっと気付いた、やっと悟った。
やっと・・・過ちを過ちだと認められた。
そうだ・・・もうやり直しなど出来ない。
王であった結果の自分がここにいるように、国は滅びたと言うのはもう覆す事の出来ない一つの事実なのだ。
だが、王としての誓いは・・・アルトリアと呼ばれた少女の想いは最後まで守られた。
それもまた紛れも無い真実。
未来の士郎が磨耗しても『正義の味方』を最後の最後まで貫けた事と同じ様に。
だが、もしやり直してしまえばその想いは誓いは何処に行く?
虚ろに偽りに出来るのか?
出来る訳が無い。
どんなに辛くとも苦難に満ちようとも後悔の重さに押し潰されようとも・・・それが今のアルトリアを形成した大切なピースなのだから。
だからそれを捨ててはいけない。
捨てられる訳が無い。
それが無くなればアルトリアはアルトリアではなくなるのだから・・・
「・・・やっと判りました・・・シロウ・・・そうだったのですね」
「セイバー?」
「何でもありませんリン、それよりもシロウを追いましょう。『聖杯』が私の願いを汚すのなら破壊するべきです」
「そうね。そんな厄介なもの私の管理地から出られて堪るものですか。それに士郎の奴は一発引っ叩かないと気が済みそうに無いから」
「とにかくリン、サクラ『大聖杯』に急ぎましょう。二人とも向かうのは『大聖杯』の筈・・・だから止めないと」
「ええ、急ぐわよ」
「ではリン失礼します」
「サクラ、無礼を許してください」
「―――――」
セイバー、ライダー、バーサーカーがそれぞれのマスターを抱え駆け出し始めた。
凛達の魔力が新都から離れていく。
「どうやら凛達は『大聖杯』に向かったようだ」
「その様だな」
中央公園にて俺とアーチャー・・・いや未来の衛宮士郎は向かい合う。
「それにしても驚いたぞ貴様があからさまに私を誘っている時は」
そう、俺はセイバー達と離れてから俺は真っ直ぐ『大聖杯』に向かわず中央公園に着くと魔力だけはグローブで遮断しただひたすら待った。
わざと仁王立ちしてただひたすら待った。
そして数分後当然の様にアーチャーは現れた。
「何となく判った。お前が俺の後を追って来る事は・・・そしてお前の正体も」
おそらくは最初会った時から。
だからこそ俺はここで待った。
『大聖杯』破壊の前にどうしても決着をつける為に。
『・・・士郎』から『衛宮士郎』となった全ての出発点であるこの地で。
「ならば判るだろう。貴様がいかに中途半端な存在か」
「そうだな。確かに俺はもらい物の理想で己を保っている。だがな・・・もらい物の理想でも目指そうと言う意思が本物ならそれは本人の理想になるはず」
「そんな世界は甘くは無い。貴様に教えてやる。世界など非情で出来ている。一を救う為に数百を見捨てた。数万を生かす為数十を殺した。そう・・・私は貴様が忌避した『正義』の遂行で世界を救ってきた」
アーチャーは淡々と話す。
もはや嘆きも怒りも何もかもが磨耗したと言わんばかりに。
「それでも報われると思っていた。たとえ視野が狭かろうとも視野に入る者達が幸福ならば・・・しかし、そのような事が続いたよ・・・何十回も何百回も何千!何万!!何億と!!!!」
徐々に大きくなり最後には絶叫と化した。
「そして思い知った、所詮貴様が・・・俺が夢見た『正義の味方』などつまるところ井の中にいる独善的な蛙の世迷言に過ぎぬ事を。だからこそ俺はこの地で・・・貴様と言う出来損ないの不適応者が本当の意味で生れ落ちたこの地において・・・貴様を殺す」
「・・・アーチャー・・・いや、未来の俺。お前は後悔しているのか?この道を進んだ事を」
「ああ後悔している。だからこそ殺すのさ。愚者を」
「そうか・・・では俺とお前は違う」
「何??」
「俺は諦めない」
「そうか・・・では理想を抱えたまま死ね」
その瞬間俺とアーチャーは同時に夫婦剣を握る。
決闘が始まった。